【酔いどれらびゅ】


いつもの場所に求めている物がなくて、俺はきょろきょろとあたりを見回す。
加山はすぐに察して、
「ほら、これ飲め」
と苦笑して、どこからか酒瓶を持ってきて差し出してくれた。
しかし、それはいつもの物とは明らかに種類が違い…
「これは…?」
「あぁ、日本酒だけど。たまにはいいだろ?」
盃は流石にないからなと言いながら、小さな湯飲み茶碗に酒を注いでいく。
注がれた液体は透明で香りも甘くまろやかだ。
いつも飲んでいる洋酒とはかなり違う。
舌先で酒を舐めるように飲んでみる。
「甘いな…」
「米の酒だからな」
加山も自分で茶碗に酒を注ぎ、飲み始める。
「いつも飲んでるのはどうしたんだ?」
そう聞いた俺に、加山は呆れた顔をして
「昨日、大神が飲みつくしたんじゃないかぁ」
とため息混じりに言った。
「え?そうだったっけ?」
「やっぱり。覚えてないのかぁ〜最近、飲みすぎだぞ。」
俺を諌めるように言ってから、「でも、」と言葉を繋ぎ、
「俺と酒飲んで気が紛れるならいくらでも付き合うよ♪」
とにこやかに笑った。
それを聞いてすまない気持ちになる。
加山は下手したら俺よりも忙しい。
今日も仕事が終わったのは日付が変わる直前で、
日付が変わった今やっと俺と酒を飲んでいる。
しかも、別に加山は飲みたくて飲んでいる訳ではない。
一人では寂しいから加山と酒が飲みたいという我侭な俺に付き合ってだ。
そんなことを週に2、3度は強いている。
恋人という立場を利用して−

「俺も大神と飲むのは楽しいから飲んでるんだぞぉ」
思考を読まれるかのようにそう言われて、
「でも…」
と口ごもった。
「俺の言うことを信じろよ♪」
そう言って、俺の手を握ってきた。
その手は大きく暖かい。
「ほんとに迷惑じゃないか?」
もう一度聞かずにはいられなかった俺に、
「全然!むしろ、大神が俺を頼ってくれて嬉しいよ。」
加山は俺の心のわだかまりを溶かすような微笑を返してきて、
「もっと素直に甘えてくれてもいいくらいだぞぉ」と耳元で囁き、
すばやく俺の唇を奪った。
「っ…」
いつもならカウンターの一発でもお見舞いするところだけど、
酔いが気持ちよく、とてもそんな気にはならなくて…
代わりに聞いてみた。
「甘えるってこういうことか…?」
加山の頬に顔を寄せ、ちゅっとくちづけた。
「お、…大神?」
加山は何を慌てているのだろう?
頭がふらふらするから、加山の肩に頭を預ける。
茶碗の底に残っていた酒を一気に飲み干し、
さらに酒が回るのを感じる。
「加山ぁ、酔ってきた…かも?」
「かも。じゃなくて酔ってるんだよ!大神が自分からキスしてくるなんて…」
「嫌だったか?」
「そんな訳ないだろ…」
じゃあ、と思って加山の唇に自分の唇を押し付ける。
唇を離そうとしたら、加山の手が後頭部に回ってきてしっかりと押さえつけられた。
何度もお互いの唇を重ねあっていると、酸欠でくらくらしてくる。
力が抜けて崩れ落ちそうになる体を支えるために加山の腕に縋りついた。
唇が僅かに離れた隙に、
「大神…口開いてくれる?」
と言われ、素直に口を開いた。
「舌、出して?」
と言われ、それにも従う。
加山は艶笑すると、舌を唇に挟み込んで、優しく吸ってきた。
そのまま唇がまた重ねられ、加山の舌に俺の口腔が撫でられる。
これまで感じたことのない感覚に体が包まれた。
これがディープキスってやつかな…なんてぼんやりと思いながら、
俺も必死に舌を差し出す。
唇が離れたときには、息がはあはあになっていた。
「大神…今日は素直すぎ」
と呆れるように言われたから、心配になって
「駄目だったか?」
と聞くと、加山は笑顔全開で
「ううん。もう少し素直でいて♪」
と言うや、俺の体を押し倒してきた。





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