【ぐるぐるまき】

「加山、ここに座って」
大神が指で示した椅子に大人しく座る。
内心は心臓が飛び出そうなほどドキドキしていた。
”今日は俺の言うことを聞いてもらう”なんて厳しい顔で言われて、
部屋に問答無用で連れて行かれて、ドキドキしないほうが無理だろう。
今のところは良いことである確率と悪いことである確率は半々だろうか。

(な、縄ぁ?)
大神は部屋の奥から随分と長そうな縄を持ち出してきた。
悪いことである確率が一気に急上昇したような・・・
「何に使うんだ大神?」
聞かなくても分かる気がするけどな。
大神はいたって生真面目に答えた。
「お前を縛るんだ」
”逃げられたら困るしな・・・”と付け加えて、
大神は俺の体を椅子ごと縄でぐるぐる巻きにしはじめる。
(俺が逃げるようなことをお前は今からするのか?)
そう聞きたいが、大神があまりにも真剣に縄の端と端を結んでいるので、
声を掛けることも出来ない。

「出来た」
大神は無邪気に笑った。
この笑顔に影がある気がするのは俺だけだろうか。
ニ、三歩下がって、俺が縛られている様子を満足そうに眺め、
「加山動いちゃいけないぞ」
「大神、俺は縛られていて動けないんだが・・・」
「あぁ、そうか」
大神は当たり前のことに妙に納得し、
「あと、目瞑ってくれ」
不安感だけがさらに募る中で、瞳を閉じる。
今日は言うことを聞くと約束したから。
「あ、歯も食いしばれ」
にこやかに大神は付け加える。
(大神ぃ!お前は一体何がしたいんだよう〜)





長い時間が過ぎた。
大神は何もしてこない。
大神が俺をじいっと見つめている気配だけを感じる。



ちゅっ

唇を触れ合うだけのくちづけが落とされ、恐る恐る目を開けると、
目の前には頬を朱に染めた大神の顔があった。
「誕生日おめでとう。加山・・・」
恥ずかしげな笑顔。
思わず約束を忘れて、話しかける。
「お、大神。お前・・・それがしたかったことか?」
「う…うん」
照れて答える顔はたまらなく愛らしいが、少し方法を間違っているだろう。

「何故俺を縛った?」
「だってー俺からキスしたりしたら、お前変なことしてくるだろ・・・
それが嫌だったんだ」
確かにおそらく(いや、必ず)俺は体が自由だったら、
大神に倍返しをしてしまうだろうがー
「じゃあ、目は?」
「見られてると恥ずかしくて出来ないから・・・」
「口は?」
「舌入れられたりしたら嫌だなぁと思って・・・」
大神もさすがにやりすぎたと気付いたのだろう。
語尾がどんどん自信なさげに小さくなってくる。

「ごめんー」
大神は目に雫を溜めていた。
「お前の誕生日を祝いたかっただけなのに変なことして」
俺の誕生日を祝いたかっただけ・・・その言葉に胸が熱くなった。
「気にするな。大神・・・気持ちもキスも有り難くいただくよ」
「加山・・・」
「でも、来年は俺のこと縛らずにキスしてくれたら、もっと嬉しいかな」
「わかった。頑張ってみる」
大神は小難しい顔をして答えた。



「大神ぃ、お前に誕生日を祝ってもらえるなんて、俺は世界一の幸せ者だなぁ!」
「おいおい、お前はいつでも大袈裟だな・・・」
破顔一笑。
大神の目頭に溜まっていた雫が流れ落ちた。




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